ちょっと気になるニュース

1年半ぶりです。更新を再開するというわけではないのですがちょっと気になったニュースがあったので。
これです。


市有地賃料、安すぎた…大阪市、USJを提訴へ

産経新聞 10月28日(木)13時5分配信
 大阪市が、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ、同市此花区)に貸している市有地の賃料値上げを求め、大阪地裁に提訴する方針を固めたことが28日、分かった。USJ側は、値上げが年間約3億1千万円の負担増となるため、「逆に値下げを求めていく」と反発している。
 市によると、市有地は駐車場やアトラクションの一部に使われている。賃料は3年ごとに改定する契約で、現在の賃料は1平方メートルあたり月額388円。
 しかし、市の調査で民間企業がUSJに貸している土地の平均賃料が同516円と判明。民間と同水準まで値上げを求めたが、USJ側は拒否。市は今年4月に大阪簡裁に調停を申し立て、その後は大阪地裁に移ったが、10月に不成立となった。市は11月、市議会に提訴のための議案を提出する方針。


米ゴールドマン買収のUSJ、賃料値上げ応ぜず−大阪市が調停準備

  2月10日(ブルームバーグ):米ゴールドマン・サックス系のSGインベストメンツが株式の公開買い付け(TOB)で取得した「ユー・エス・ジェイ」(USJ)が運営する大阪市内のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の敷地をめぐり、土地を所有する大阪市が賃料値上げに応じないとしてUSJを相手取り、大阪簡裁に調停申し立ての準備を進めていることが分かった。
  大阪市まちづくり事業部の鷹見泰人氏によると、市はユニバーサル・スタジオの敷地面積54万平方メートルのうち約20万平方メートルの土地を所有。USJが駐車場や一部のアトラクションなどとして使用している。市は昨年秋から10年度以降の年間賃料を3億1000万円値上げして、12億6000万円とするようUSJ側に求めていたが、同意が得られないため、「調停申し立てに必要な関連議案を議会に提出する準備を進めている」という。
  鷹見氏は値上げの根拠について、市有地の賃料が1平方メートル当たり月額388円に対して、民間企業などが所有する土地の平均賃料516円であることを指摘。「民間と比べて不均等になっている賃料を是正することが目的」と値上げの背景を説明する。大阪市がUSJを相手取り、調停申し立ての準備を進めていることは先に10日付の朝日新聞が報じていた。
  USJの広報担当、高橋丈太氏は「値上げには反対だ。大阪市の土地の賃料は不動産鑑定士が最初に出したもので、その契約を今になって変えるのはおかしい」と話したうえで、「調停への参加を求められたら応じる」と述べた。
  ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは2001年に開業。初日に3万人の入場客数を記録するなど出足は順調だったが、その後に客足は低迷した。大株主であるゴールドマンなどのファンド連合は昨年3月、USJの発行済み株式の100%取得を目指してTOBを発表。大阪市は所有する全てのUSJ株式(20万株)を売却していた。
  USJの09年3月期の売上高は685億円。営業利益は86億円、純利益は70億円だった。

この話、このブログで数年前に色々と議論させてもらった問題と非常にリンクしていると思いました。
2008-09-25 - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)
継続賃料、こんなとき(2) - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)
継続賃料鑑定理論に対する現状のまとめ - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)
継続賃料鑑定理論についての現状でのまとめ(2) - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)

私が取り上げた内容は、意図して正常賃料よりも高い賃料を設定した当事者について、例えば3年後に賃料改定の運びとなったとき、その際に経済変動一切なし、地価も物価も、景気も何もかも横ばいだった世界を想定したときに、新規の正常賃料に向けて賃料は下がるのか(差額配分優位)、それとも現状維持か。というもの。

上の説明はかなりザックリと端折っているので、実際の議論の内容はそれぞれの記事を見ていただくとして、問題は契約開始当初から発生していた「正常賃料との差」は継続賃料を考える際にどう扱うべきか。
当事者の意思としてそれは維持していくものか、それとも経済原理としてやはり賃料は正常水準を目指し、「差」は徐々に縮まるのか?ということ。

ケースは違いますが、このUSJの件の本質はまさにこの問題そのものではないかと思ったのです。

この問題色々と前提となる情報が無いので整理してみます。

1.大阪市が契約している賃料はそもそも安いのか?
大阪市が言うのは、周りより安いということ。これは本質的に賃料が安いということの証明にはなりません。ただ周りが高いだけかもしれません。
大阪市は不動産鑑定評価によって賃料を決めてます。やっぱり、本当に水準として安すぎるのだ、という場合はその鑑定評価が間違ってたということを言いたいのでしょうか。もしそうなら、その場合は、とりあえず賃料を上げてくれという「気持ち」も分からないでもありません。
それとも、鑑定で出した賃料は正しいけど、周りの賃料が高いという認識でしょうか。その場合、周りが高いから自分も上げて、はちょっと無理があるかな。USJからすれば、賃料は契約交渉で決まるものであって、横並びになる必要など一切無いでしょう。大阪市が鑑定評価に納得して契約を結んだのなら、後から周りを見てあれこれ言うのはおかしい、と言いたいでしょうね。

2.安かった理由は何なのか?
仮に、ですが、この契約を結ぶとき、大阪市が「安くてもいいからとにかく借りて欲しい!」という思いから、相場より安い賃料を提示していたのだとしたらどうでしょう?もしそうなら、ここに来て「相場より安いから上げて」は少々虫のいい話に聞こえてしまう。
逆に「意図的に」市場より安い賃料で当初契約を結んだのではなくて、鑑定士に鑑定してもらったんだからこれが正常な水準だと思っていたが、そうでなかった。という場合は?
個人的には前者の場合はともかく、後者の場合では賃料交渉において、意図的に安くした場合に比べれば、少し酌んであげてもいいのかなと思う。しかし、やはり問題は大阪市は不動産鑑定評価によって当初契約の賃料を決めたってことでしょうね。それが正しいならば、やはり、このご時世に賃料増額なんて・・という話になります。(要するに、不動産評価の専門家とされている不動産鑑定士を持ち出している時点で「あのときは僕がバカだったんです・・地代のことはよくわからなくて・・」という類の話はしにくい)
さらに、報道では自分たちの賃料が安いと判断する根拠について、周りの民間との契約に比べて賃料が安いということしか言っておらず、相対的な話しかしていないので説得力が無い点は否めない。(私がUSJの立場なら、あなた方が当初契約のときに持ち出した「鑑定評価」ってやつをしてみたらどうですか?と言いたいところだろう)

3.契約発生当初からの賃料差額の扱い
仮に、本当に大阪市の契約した賃料が安すぎたとして、実際まだ、新規の正常賃料よりも安かったとします。その場合、このご時世に正常賃料へ向けて増額改定するのが正しいのでしょうか?
経済の趨勢としては右肩下がりで、継続賃料の鑑定評価をしたら普通は減額改定の結果が出るのではないでしょうか。(差額配分法以外は)
そうでなくても、例えば経済の趨勢が横ばいだったらどうでしょう?現状維持が正しい?それとも差額配分法優位で正常に向けて上がっていく?(この場合、利回り法、スライド法は横ばい、差額配分法は増額改定と出るでしょう。)

すなわち、賃料改定時に当初契約時点で発生していた正常賃料との差額まで修正すべきなのか、契約時点移行の変化のみを反映させるべきかという問題になります。
この点、こちらのサイトhttp://www4.ocn.ne.jp/~kajitosi/col233.htmでは、売買契約との対比で、修正はなされないべきと論じます。
私個人は前の議論にもあった通り、意図的に発生させた差額なら修正はできないが、意図したものではなかった(浅慮、情報不足など)場合は、ある程度考慮してあげても・・と思います。基本的には当初契約の内容というものは尊重されるべきで、改定においてはその間に起こった変動によって不相応と「なった」部分のみを修正するというのが正しいスタンスであり、当初から不相応「だった」部分まで修正する必要は無いと思いますが、賃貸借契約は売買取引と違って長期に及ぶものですから、当初契約で双方、あるいは一方に間違いがあった場合、この修正を一切認めないとすると、時とともにそのズレは累積し、その一時点のズレが、大変大きくなっていく可能性がある、と考えるからです。

ただし、上記の考え方には大きな穴があり、一番の問題は「意図した」とか「意図せず」といったものを判断の基準に出来るか?ということ。正直、契約書に「相場の3割引で貸す、改定においても同様にこれを考慮する」などと明記でもしない限り、後から賃料差額が意図的なものか意図しないものかなんて判断できないでしょうから、現実的には難しいですね。(ひょっとしたら契約書に書いたって、裁判になったら何の意味も成さない可能性ありそうですね。)ですから、これは鑑定評価理論の話というより、調停の場において落としどころを探るために使えるかもしれない理屈、程度のものです。

さて、机上の空論はさておき、今回のケースを現実的に考えてみると、周りが高いというのは賃料増額の理由にはならない。当初契約時点に比べて、現在において賃料が不相応になったかといえば、地価も下落しているでしょうから、相応に近づいたんでしょう。ただし元々の水準が安かったことについて説得力ある説明が出来るなら、本来下落改定であるところを、現状維持にしたり、下落幅を小さくしてもらうことは出来るかもしれない。

というところでしょうか?事実関係で分かっていない部分(当初契約から今までの改定の経緯など)が沢山あって、その点想像で書いているうえ、あまり深く考えずに前の議論の延長でざーっと書いたので、変なところが沢山あるかもしれませんがご容赦ください。なかなか面白いケースだと思いますので、一度考えてみたらどうでしょう??