借地権残余法

この論点は、shujiさんのブログ→借地権残余法: 1日でも早く、不動産鑑定士になる!!にコメントしたのがきっかけで考えたことです。大変勉強になったのでまとめておきたいと思います。

借地権付建物(貸家)の借地権の評価(部分鑑定評価)において、借地権残余法を適用する際、総収益の把握は現行の実際実質賃料で行なうか、正常実質賃料で行なうか、という論点です。
(1)正常実質賃料か、実際実質賃料か

実務修習テキスト等では現行賃料に関わらず、正常実質賃料を査定し、それを用いるべきとあります。

しかし当初の私の考えは、借地権付建物について、当該建物を前提とし、借地権部分を部分鑑定評価するのであるから、現在の賃料収入を元にすべきと考えていました。

しかし、ここまではっきり書かれているなら、それなりに論拠があるのだろうと考え、なぜ、正常実質賃料を用いるのか、私が一応到達した結論は以下の通りです。(shujiさんのブログへのコメントより)

そもそも、土地残余法が、複合不動産の純収益から建物(等)に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元する方法ですよね。例えば、貸家及びその敷地において、家賃が正常賃料より高い場合、一体としての収益価格は自用の場合より高くなることもあると思います。(全体としての純収益が大きい場合)


ただし、部分鑑定評価で、土地残をする場合は、純収益を建物等に帰属する部分と土地に帰属する部分に分けないといけません。


正常賃料より高いことによって得られている超過分の純収益をどのように配分するのか、というところですが、土地のポテンシャルには含めず、建物だったり、労働、経営等に配分すべきとも考えられます。例えば隣同士、全く条件の同じ土地において、建物や経営努力の違いによって上げている収益が異なる場合でも、それらは土地の潜在的収益力以外の部分でもたらされているものであり、適正に配分されれば、最終的に土地に配分される純収益の部分は変わらず、一体としての収益価格には差が付くが、部分鑑定評価した場合の土地の収益価格は一緒になるという考え方です。


逆に、経営能力の低さによる収益の減少がある場合に、それを適正に配分しないと、土地に帰属する収益の減少として取り扱われることになり、このような配分は正しく行なわれたものとはいえない(収益配分の原則、要説より)というような記述もあります。

そう考えると、建付地や借地権の価格そのものは、上物の「経営の状態」には左右されないという考え方になり、残余法をやるときは出来るだけ適正に配分できるよう、新築建物を想定し、普通の家賃でやるということになります。

この論法は、結局賃貸不動産の経営状態の良否による増価分や減価分を土地に配分するかどうか、複合不動産の鑑定評価額の内訳価格をどう考えるかというところにつながりますが、超過収益による建付増価が見られるような現状では説得力はあまり無いような気もしますが・・・。

以上です。今では、この説明で問題無いのでは、と思うに至っています。

つまり、借地上の建物の賃料の多寡は借地権付建物一体の収益価格には影響を及ぼすが、借地権残余法を適用した際の借地権価格には影響を及ぼさない、ということです。
それは正常実質賃料(いわば普通の人が普通の能力で借地上の建物を運用した際、得られる賃料)を超えた超過分の収益は土地の潜在収益力とは離れたところにあるもの、という考え方です。
(*今、便宜上、正常実質賃料を越える場合を前提に書いていますが、逆に正常実質賃料を下回っている場合も同様です。)

また、shujiさんは実務修習の講義で、講師を務められた竹下先生に質問され、その回答として、賃料差額還元法との整合の観点から正常実質賃料を用いるべきとの回答を頂いたそうです。以下shujiさんのブログより引用します。

(竹下先生の回答)
借地権残余法と、賃料差額還元法は、基本的には同じです。違いは、借地権の上に、建物があるかないかです。
賃料差額還元法で、土地の正常実質賃料を用いるならば、借地権残余法においても、正常実質賃料でなければ、整合性がとれなくなります。もし、実際実質賃料が正常実質賃料と乖離している場合に、実際実質賃料を用いれば、適切な借地権価格を求めることができません。

最初は意味がよく理解できなかったのですが、よくよく考えるとその通りだなと思います。

借地上の建物がどれぐらい賃料を得ているとしても、賃料差額還元法では正常実質賃料(地代)と現行地代との差額を元に借地権価格を把握します。
これとの整合を取るなら、借地権残余法でも出発点は貸家の正常実質賃料で、そこから配分していく、ということになります。

例えば今、ある借地権付建物(貸家)があり、建物の正常実質賃料を査定すると100という賃料が得られたとします。そして仮に正常に配分した場合、収益は借地権、建物に50ずつ配分されるとします。
そこで、実際にはその建物は120の賃料を得ていたとします。その場合に例えば借地権への配分が60に増える、と考えるのが、現行賃料採用説、となります。
つまり、一体として高い収益を得ている場合、一体としての収益価格が上昇するのは当然として、借地権部分への配分も増え、部分鑑定評価した借地権価格も上昇すべき、と考えます。
逆に正常賃料採用説では、あくまで借地権への配分は50のままです。増えた20の部分は少なくとも土地(借地権)がもつ収益力ではなく、ほかのところからもたらされたと考えます。
それが、経営なのか資本なのか労働なのか分かりませんが、この考え方によればどうせ配分しない20の部分は考えず、正常実質賃料を元に配分するのがベストになります。

先ほど、賃料差額還元法との整合で正常実質賃料を求めるべき、と書きました。
それは、借地権残余法で60を配分すべきと考える立場に立つなら、50との差額で借地権価格を把握するのは整合しないという意味です。現行賃料120を前提に借地権の価値に相応した地代水準から現行地代を引かないと整合が取れなくなるということです。
この点は考え方次第で、賃料差額還元法の方で整合性を取るということも考え方としてはありえます。(個人的には上記、収益配分のロジックに今のところ納得してるので正常実質賃料で整合をとるほうが説明がつきやすいですが。)


正常実質賃料を用いることについて、最も引っかかっていたのは「現況所与どこいった?」ということでした。借地権付建物の部分鑑定評価であるのに、現行の賃料を無視して正常実質賃料を想定してしまうのは、現況を所与として部分としての借地権価格を求めるという、部分鑑定評価の考え方と矛盾しているのでは、ということです。

しかし、shujiさんのところで竹下先生の説明を読ましていただき、これについては整理が出来たと思います。
もちろん部分鑑定評価は現況所与であり、求める総収益は現況建物を前提としたものです。ただし、賃料については総収益を適正に配分するため、また賃料差額還元法との整合性の観点から正常実質賃料を採用する。
因みに、独立鑑定評価の場合は現況は関係なく、借地契約の範囲内で最有効使用を想定することになり、これが部分鑑定評価と独立鑑定評価の違いとなると思います。

(2)建物は新築想定か否か

shujiさんのブログに掲載されたshujiさんと竹下先生とのやり取りを見ると、建物については現在の中古建物を前提とし、その正常実質賃料を求め、建物価格も中古建物の価格を求めるとの回答であったようです。
最初は、なるほど、現況所与の部分鑑定評価だから現在の建物の状態を前提にするのだな、と納得していたのですが、こうして長々とまとめてきて、ふとどうなんだろうか?と思いました。

今までの論拠で行くなら、建物は新築状態を採用し、建物の還元利回りも新築状態を前提としたものを採用するというのが一番理屈に合っているかなと思います。今まで書いてきたことは、借地権の収益価格は建物がどんな状態でも、賃料をどれだけ上げていても、常に一定であるということですから。(もちろん借地権付建物一体の収益価格は変動します。)

もちろん、現行の中古建物の正常実質賃料を求め、中古建物に対応する還元利回りをもちいれば、同じ結果は導き出せますが、今まで収益配分の適正さを求めて正常実質賃料を、と書いてきたのですから、これに関しても一番シンプルに、新築想定をするのが妥当かと思います。


自分が実務修習をした際のメモを振り返ると、当初私は、現行建物を前提にした正常実質賃料でもって借地権残余法を適用していました。
つまり、今自分が正しいと思っている方法です。その後、色々と考えた結果、内容を変更し、借地契約の範囲内で最有効の建物を想定した借地権残余法を適用してました。
当時は色々と考えて出した結論だと思うのですが、これは完全に間違っていたと今では思いますし、当時の反省メモにも「これは独立鑑定評価の考え方ではないか?」とありましたので、出した後で気付いた節もありました。

まだまだ、穴はあるとは思いますが、とりあえず整理の意味でまとめてみました。

最後にもう一度。

この論法は、結局賃貸不動産の経営状態の良否による増価分や減価分を土地に配分するかどうか、複合不動産の鑑定評価額の内訳価格をどう考えるかというところにつながりますが、超過収益による建付増価が見られるような現状では説得力はあまり無いような気もしますが・・・。

これに尽きますね・・・。確かに説得力はない。土地の建付増価を認めるなら、借地権の建付増加のようなものもあって当然と考えることもできるでしょう。

勉強方法を考えるのもまた楽しい

このサイトをご覧になる方というのは、おそらく不動産鑑定士試験の受験生、あるいは実務修習について調べていてたどり着いた実務修習生かな、と思います。

そういう意味では、新制度になって初回の平成18年の試験、そして初回の実務修習、2回目の修了考査について記述しているこのブログは、既に通用しない情報が多く、賞味期限は切れていると言っていいでしょう。

中には勉強方法について記述した記事もありますが、とても今の試験を受ける方に参考になる内容ではありません。ただ、具体的な勉強方法でなく、「勉強方法を考えるためのアドバイス」として書いた以下の記事は、今に至っても全く同じ気持ちです。

2006-12-28 - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)

ターゲットを定め、自分の位置を正確に把握し、そこに至るために必要なことを洗い出し、期限までにそれを達成するためのスケジュールを設定する。こういったことを自分で考えて、進んでいく過程が、また楽しいものだと私は思います。

もちろん合格した方の勉強方法には参考に出来る部分が多くあるはずですし、情報を沢山集めることはとてもいいことだと思います。あとは情報を、自分が置かれた状況や自分の能力などを勘案して取捨選別し、必要なものは取り入れて、最終的に自分で全てを決める姿勢が大事だと思います。

口頭試問真っ最中??

そういえば、2月上旬頃ではなかっただろうか?
不動産鑑定士実務修習の最終関門である口頭試問。

鑑定協会のWEBサイトを見てみたが、はっきりとは分からなかった。

口頭試問については以前下記の様なエントリを上げたが、その後改善されているのだろうか。

修了考査で不合格になることについてのロジック - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)

鑑定協会のWEBサイトを見る限り、ロジックとしては変わっていない。

つまり「認定≠必要十分」であるから、認定は合格ではない。口頭試問で聞かれるまでに不十分なところを考え直しておきなさい、ということである。

個々の内訳書(評価書)に対するフィードバックは行われるようになったのだろうか?
それとも相変わらず、「認定」と「非認定」の結果通知だけだろうか?

認定された人が自分の内訳書(評価書)に、「認定ではあるが不足している部分」があるのかどうか、それはどこなのか、知る方法はあるのだろうか。

作った本人は当然、よっぽどのことが無い限り100%の出来だと思って出しているはずである。そして(少なくとも建前上は)指導鑑定士のチェックを受け、コメントをもらって提出しているのだから、指導鑑定士に聞いても分からないはずである。

となると、修習生同士の横のネットワークが重要になってくる。相互にチェックを行って指摘をもらう、という方法は効果的と思われる。

まあ、合格率は非常に高いので、まじめに課題をやってしっかりと復習をしていれば、基本的には問題ないのだろうけど。

いやしかし、懐かしい。

修了考査当日ドキュメント - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)

ちょっと気になるニュース

1年半ぶりです。更新を再開するというわけではないのですがちょっと気になったニュースがあったので。
これです。


市有地賃料、安すぎた…大阪市、USJを提訴へ

産経新聞 10月28日(木)13時5分配信
 大阪市が、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ、同市此花区)に貸している市有地の賃料値上げを求め、大阪地裁に提訴する方針を固めたことが28日、分かった。USJ側は、値上げが年間約3億1千万円の負担増となるため、「逆に値下げを求めていく」と反発している。
 市によると、市有地は駐車場やアトラクションの一部に使われている。賃料は3年ごとに改定する契約で、現在の賃料は1平方メートルあたり月額388円。
 しかし、市の調査で民間企業がUSJに貸している土地の平均賃料が同516円と判明。民間と同水準まで値上げを求めたが、USJ側は拒否。市は今年4月に大阪簡裁に調停を申し立て、その後は大阪地裁に移ったが、10月に不成立となった。市は11月、市議会に提訴のための議案を提出する方針。


米ゴールドマン買収のUSJ、賃料値上げ応ぜず−大阪市が調停準備

  2月10日(ブルームバーグ):米ゴールドマン・サックス系のSGインベストメンツが株式の公開買い付け(TOB)で取得した「ユー・エス・ジェイ」(USJ)が運営する大阪市内のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の敷地をめぐり、土地を所有する大阪市が賃料値上げに応じないとしてUSJを相手取り、大阪簡裁に調停申し立ての準備を進めていることが分かった。
  大阪市まちづくり事業部の鷹見泰人氏によると、市はユニバーサル・スタジオの敷地面積54万平方メートルのうち約20万平方メートルの土地を所有。USJが駐車場や一部のアトラクションなどとして使用している。市は昨年秋から10年度以降の年間賃料を3億1000万円値上げして、12億6000万円とするようUSJ側に求めていたが、同意が得られないため、「調停申し立てに必要な関連議案を議会に提出する準備を進めている」という。
  鷹見氏は値上げの根拠について、市有地の賃料が1平方メートル当たり月額388円に対して、民間企業などが所有する土地の平均賃料516円であることを指摘。「民間と比べて不均等になっている賃料を是正することが目的」と値上げの背景を説明する。大阪市がUSJを相手取り、調停申し立ての準備を進めていることは先に10日付の朝日新聞が報じていた。
  USJの広報担当、高橋丈太氏は「値上げには反対だ。大阪市の土地の賃料は不動産鑑定士が最初に出したもので、その契約を今になって変えるのはおかしい」と話したうえで、「調停への参加を求められたら応じる」と述べた。
  ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは2001年に開業。初日に3万人の入場客数を記録するなど出足は順調だったが、その後に客足は低迷した。大株主であるゴールドマンなどのファンド連合は昨年3月、USJの発行済み株式の100%取得を目指してTOBを発表。大阪市は所有する全てのUSJ株式(20万株)を売却していた。
  USJの09年3月期の売上高は685億円。営業利益は86億円、純利益は70億円だった。

この話、このブログで数年前に色々と議論させてもらった問題と非常にリンクしていると思いました。
2008-09-25 - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)
継続賃料、こんなとき(2) - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)
継続賃料鑑定理論に対する現状のまとめ - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)
継続賃料鑑定理論についての現状でのまとめ(2) - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)

私が取り上げた内容は、意図して正常賃料よりも高い賃料を設定した当事者について、例えば3年後に賃料改定の運びとなったとき、その際に経済変動一切なし、地価も物価も、景気も何もかも横ばいだった世界を想定したときに、新規の正常賃料に向けて賃料は下がるのか(差額配分優位)、それとも現状維持か。というもの。

上の説明はかなりザックリと端折っているので、実際の議論の内容はそれぞれの記事を見ていただくとして、問題は契約開始当初から発生していた「正常賃料との差」は継続賃料を考える際にどう扱うべきか。
当事者の意思としてそれは維持していくものか、それとも経済原理としてやはり賃料は正常水準を目指し、「差」は徐々に縮まるのか?ということ。

ケースは違いますが、このUSJの件の本質はまさにこの問題そのものではないかと思ったのです。

この問題色々と前提となる情報が無いので整理してみます。

1.大阪市が契約している賃料はそもそも安いのか?
大阪市が言うのは、周りより安いということ。これは本質的に賃料が安いということの証明にはなりません。ただ周りが高いだけかもしれません。
大阪市は不動産鑑定評価によって賃料を決めてます。やっぱり、本当に水準として安すぎるのだ、という場合はその鑑定評価が間違ってたということを言いたいのでしょうか。もしそうなら、その場合は、とりあえず賃料を上げてくれという「気持ち」も分からないでもありません。
それとも、鑑定で出した賃料は正しいけど、周りの賃料が高いという認識でしょうか。その場合、周りが高いから自分も上げて、はちょっと無理があるかな。USJからすれば、賃料は契約交渉で決まるものであって、横並びになる必要など一切無いでしょう。大阪市が鑑定評価に納得して契約を結んだのなら、後から周りを見てあれこれ言うのはおかしい、と言いたいでしょうね。

2.安かった理由は何なのか?
仮に、ですが、この契約を結ぶとき、大阪市が「安くてもいいからとにかく借りて欲しい!」という思いから、相場より安い賃料を提示していたのだとしたらどうでしょう?もしそうなら、ここに来て「相場より安いから上げて」は少々虫のいい話に聞こえてしまう。
逆に「意図的に」市場より安い賃料で当初契約を結んだのではなくて、鑑定士に鑑定してもらったんだからこれが正常な水準だと思っていたが、そうでなかった。という場合は?
個人的には前者の場合はともかく、後者の場合では賃料交渉において、意図的に安くした場合に比べれば、少し酌んであげてもいいのかなと思う。しかし、やはり問題は大阪市は不動産鑑定評価によって当初契約の賃料を決めたってことでしょうね。それが正しいならば、やはり、このご時世に賃料増額なんて・・という話になります。(要するに、不動産評価の専門家とされている不動産鑑定士を持ち出している時点で「あのときは僕がバカだったんです・・地代のことはよくわからなくて・・」という類の話はしにくい)
さらに、報道では自分たちの賃料が安いと判断する根拠について、周りの民間との契約に比べて賃料が安いということしか言っておらず、相対的な話しかしていないので説得力が無い点は否めない。(私がUSJの立場なら、あなた方が当初契約のときに持ち出した「鑑定評価」ってやつをしてみたらどうですか?と言いたいところだろう)

3.契約発生当初からの賃料差額の扱い
仮に、本当に大阪市の契約した賃料が安すぎたとして、実際まだ、新規の正常賃料よりも安かったとします。その場合、このご時世に正常賃料へ向けて増額改定するのが正しいのでしょうか?
経済の趨勢としては右肩下がりで、継続賃料の鑑定評価をしたら普通は減額改定の結果が出るのではないでしょうか。(差額配分法以外は)
そうでなくても、例えば経済の趨勢が横ばいだったらどうでしょう?現状維持が正しい?それとも差額配分法優位で正常に向けて上がっていく?(この場合、利回り法、スライド法は横ばい、差額配分法は増額改定と出るでしょう。)

すなわち、賃料改定時に当初契約時点で発生していた正常賃料との差額まで修正すべきなのか、契約時点移行の変化のみを反映させるべきかという問題になります。
この点、こちらのサイトhttp://www4.ocn.ne.jp/~kajitosi/col233.htmでは、売買契約との対比で、修正はなされないべきと論じます。
私個人は前の議論にもあった通り、意図的に発生させた差額なら修正はできないが、意図したものではなかった(浅慮、情報不足など)場合は、ある程度考慮してあげても・・と思います。基本的には当初契約の内容というものは尊重されるべきで、改定においてはその間に起こった変動によって不相応と「なった」部分のみを修正するというのが正しいスタンスであり、当初から不相応「だった」部分まで修正する必要は無いと思いますが、賃貸借契約は売買取引と違って長期に及ぶものですから、当初契約で双方、あるいは一方に間違いがあった場合、この修正を一切認めないとすると、時とともにそのズレは累積し、その一時点のズレが、大変大きくなっていく可能性がある、と考えるからです。

ただし、上記の考え方には大きな穴があり、一番の問題は「意図した」とか「意図せず」といったものを判断の基準に出来るか?ということ。正直、契約書に「相場の3割引で貸す、改定においても同様にこれを考慮する」などと明記でもしない限り、後から賃料差額が意図的なものか意図しないものかなんて判断できないでしょうから、現実的には難しいですね。(ひょっとしたら契約書に書いたって、裁判になったら何の意味も成さない可能性ありそうですね。)ですから、これは鑑定評価理論の話というより、調停の場において落としどころを探るために使えるかもしれない理屈、程度のものです。

さて、机上の空論はさておき、今回のケースを現実的に考えてみると、周りが高いというのは賃料増額の理由にはならない。当初契約時点に比べて、現在において賃料が不相応になったかといえば、地価も下落しているでしょうから、相応に近づいたんでしょう。ただし元々の水準が安かったことについて説得力ある説明が出来るなら、本来下落改定であるところを、現状維持にしたり、下落幅を小さくしてもらうことは出来るかもしれない。

というところでしょうか?事実関係で分かっていない部分(当初契約から今までの改定の経緯など)が沢山あって、その点想像で書いているうえ、あまり深く考えずに前の議論の延長でざーっと書いたので、変なところが沢山あるかもしれませんがご容赦ください。なかなか面白いケースだと思いますので、一度考えてみたらどうでしょう??

ブログの更新を終了します

不動産鑑定士として登録を受け、しばらく更新が途絶えました。
いろいろと考えましたが、このブログの更新は終了することとします。

もともと、受験から不動産鑑定士登録までの道のりを記録していこうとしていたブログであり、その目的が達成されたことが理由の一つ、さらに鑑定理論等について疑問に思ったことを取りあげて「どうなんでしょ?」というスタンスで書いていましたが、実務修習生としてならいざ知らず不動産鑑定士としてはその様なエントリは上げにくいことも理由の一つです。(要するにレベルが低い・・)

過去の記事を見返すと、更新予定のまま書かずに終わっている内容もいくつかはあるのですが、このまま終了にします。すみません。

旧ブログからはじまって、受験中や修習中、いろいろな方にコメントを頂き、大変勉強になりました。また修了考査のあたりでは、いつになく賑わって、修習制度や鑑定業界そのものについても、色々なご意見を聞くことが出来ました。

またいつか、鑑定士として熟達し、世の中に発信できるようなエントリを書けるようになったら、またやりたいと思います。

読んでいただいていたすべての方に感謝いたします。ありがとうございました。

不動産鑑定士への道、踏破

先週、ついに不動産鑑定士登録の通知が自宅に来ました。

申請してから3週間ほどかかると書いてあったのですが、1週間ほどで完了したみたいです。

これで形式的には不動産鑑定士になりました。
3年半にわたった『不動産鑑定士への道』、ついに踏破です!

もちろん、これから本当の意味での「不動産鑑定士への道」が始まるわけですが。

実務修習の問題点や改善点について寄せられた意見

先月末に、不動産鑑定士登録のための書類を県庁にて提出しました。登録には3週間ほどかかるそうで、今は待ちの状態です。

さて、口頭試問が終わった頃から、実務修習生をはじめとするたくさんの人に、実務修習についての問題点や改善点に関するコメント等を頂きました。せっかくですから今回はそれらを抜粋、引用してまとめてみることにします(自分のコメントも含んでいます)。あくまで寄せられたコメントに基づく意見であり、そのコメント自体の真偽については知りようもありませんので、「コメントが事実であれば」という前提が付いていることをご理解ください。

■論文課題について

・確かにわかりにくい文章ですよね。というか今でも自分が正確に意図を読み取っているかどうか
・論文に関しては、模範答案(あるいは優秀答案)と合格答案の二つを開示してはどうでしょうか。

論文課題の文章がとても意味を取りにくく、また、キーとなる「高度利用賃貸」というワード自体の曖昧さ(大した定義が無い)から、出題者側の意図を読み取りにくかった。論文課題は意図するところを明確にして欲しい。また、これらの問題の解決案として終了後の模範答案の開示はどうか。

■面接の方法等

(面接には)公平性、公正性などが求められます。しかし、口頭試問では、4つの部屋に分けられて、4パターンの異なる面接官(試験官)による試問を受けます。面接をうける部屋が、AかBかCかDかで、結果が異なるようなことは、あってはならないことです。
高圧的な面接官もいるようですが、これも大きな問題です。人には、いろいろな性格があり立場的に有利な面接官から高圧的な態度を、取られると委縮してしまい、本来の実力を発揮できないこともあります。
口頭試問の主旨は、鑑定士としての実力を持っているか判定するものでしょうから、むしろ受験生に、しゃべらせるように面接官が、誘導することが大切だと思います。しゃべらせることによって、その人が鑑定士としての資質を備えているか判定できるのではないかと思います。

受験者の人数等を考えると、複数チームで面接せざるをえないと思いますが、面接官によってその方法(質問内容、態度)がバラバラというのは問題ではないか。また、高圧的にされる方もいるようですが、鑑定士の修了考査において圧迫面接のようなことが(あるとすればですが)必要でしょうか。

■当落判定の仕方

・結果は、面接のみでなく総合判断していただきたいです。
・口頭試問で聞くほど重要なことであるならば、実地演習の段階で指摘すればいいことだと思います
・知り合いには複数の質問に答えられなかったし、挙句の果てに勉強不足を指摘されつつも合格した人がいる反面、試験委員を論破して落とされた人がいるらしいです。
・昨年不合格だった理由は、口述試験の出来の悪さのみでした。不合格理由は通知してもらえるシステムになっていますが、口述試験当日指摘されたことが理由でした。
・一度、認定しておきながら、最終的に修了していないこともありうるという試験制度は、不自然な気がします。口頭試問で作成した内訳書が、他人のものを丸写ししたことが、発覚した場合は別として。

先日も書きましたが、修了考査の面接は、実地演習段階での不足事項についてその後のフォローが出来ているかについてのチェックのようです。したがってまず、実地演習について認定を出したときも減点事項・指摘事項があるのならば修習生にフィードバックされるようなシステムにして欲しい。
また、これらのコメントを見ますと、「面接だけで決まっている」というよりも、逆に「実地演習が終わった時点でだいたい決まっている」ような印象も受けます。もしそうなら、不備のある内訳書を中途半端に認定することなく、早めに非認定や再提出を求めることで、修習生に求める水準に達していないことがわかるような仕組みの方がいいと思います。

■その他

・指導鑑定士の力量、修習への熱心さが大きいと、私も感じます。
・いざ、制度を変えてみたが、やってみないとわからないという事が多過ぎ、検討する時間もなく見切り発車したとしか思えません。修習機関の力、指導鑑定士のレベルは千差万別で、修習生の力では全く如何ともし難いものがありますが、この現実を予想していなかったのでしょうか。皺寄せを全一的に修習生に帰しておいて、制度改正は有能な人材を広く集めるためとは白々しくて、不信感が募ります。修習生にできることは、協会本部に改善を求めることもありますが、修習に関する実際的な情報を共有して自分たちを守ることが重要。
・今後、試行錯誤の過程を経て実務修習の在り方が変わっていくことを期待します。しかし、現状いろいろな制度上不備なところが目立ちます。制度上の単なる不備であれば、即改良されるでしょう。私が心配しているのは、従来から業界全体が閉鎖的で既得権益を守ろうとする不動産鑑定士が非常に多いということです。このことは実務修習と無関係のようですが、実は非常に密接な関係があると思います。自分の既得権益を守りつつ、指導鑑定士になろうとする鑑定士がどれほどいるのでしょうか?いたとしても新しい不動産鑑定士を育成しようとする本当に考えて指導しているのでしょうか?このような業界全体の問題のほか、実務修習自体の問題も多いことは修習生の共通認識だと思います。この共通認識を協会が吸い上げて制度を変えてて行こうという姿勢がなければ、受験生が減少し、鑑定士自体の質も維持することは困難でしょう。
・しかし今回自分で受けてみて、今までがどうだったかは知らないですが、今回のシステムは指導鑑定士の負担が大きすぎやしないかと思います。個人事務所が主体の地方では、これを引き受けるだけでも相当な覚悟が必要になるでしょう。この辺をもう少し考えないと、個人(指導者)のやる気に依存するのでは立ち行かないでしょうね。

新制度の実務修習になり、指導鑑定士の負担は以前の制度よりも大きくなったのではないかと思います。(以前のシステムは知らないのであくまで想像の範囲ですが)また、業界自体の現状が厳しいこともあり、修習生の受け入れ先は少なく、また質も保証されたものではありません。特に、鑑定の実務は何も知らない状態で業界に入り(広く多様な人材を受け入れるのが新制度の目的の一つではなかったでしょうか)、いきなり課題の提出が始まる可能性がある現行制度では、最初の時期は特に指導鑑定士の力量や、きちんと指導してもらえるか否かが大きいと思います。仮にそうでなくても周りにたくさんの先輩鑑定士がいるような環境ならば何とかなるかもしれませんが、なかなか望めるものでもありません。

指導鑑定士の負担と責任が増す中で、今現在は指導者になろうとする鑑定士の数に比べて、修習生の数が多すぎるのが現状だと思います。しかし、ここ数年の合格者数は極端に減らしており、絶対数としては決して多くはありません。(年間百数十人程度)
これを受け入れることが出来ない現状というのは大変厳しいものだと言えます。また、仮に指導鑑定士の下で修習を受けられても15%〜20%程度は求める能力を身につけられず、不動産鑑定士になれないという結果になっています。

何故このような状況になっているのか?と考えれば上記のコメントで述べられていることをはじめ、色々な原因が考えられます。
もちろん修習生自身が向上心をもって努力しているかどうかが一番大事ですが、それ以外のことについては修習生ではいかんともしがたいのが現実です。

実務修習の問題点を考えていると、結局、もっと大きなレベルの話になってきます。どなたかがおっしゃいましたが、実務修習のシステムを修正するだけでは解決しない問題も多いと思われます。