借地権残余法

この論点は、shujiさんのブログ→借地権残余法: 1日でも早く、不動産鑑定士になる!!にコメントしたのがきっかけで考えたことです。大変勉強になったのでまとめておきたいと思います。

借地権付建物(貸家)の借地権の評価(部分鑑定評価)において、借地権残余法を適用する際、総収益の把握は現行の実際実質賃料で行なうか、正常実質賃料で行なうか、という論点です。
(1)正常実質賃料か、実際実質賃料か

実務修習テキスト等では現行賃料に関わらず、正常実質賃料を査定し、それを用いるべきとあります。

しかし当初の私の考えは、借地権付建物について、当該建物を前提とし、借地権部分を部分鑑定評価するのであるから、現在の賃料収入を元にすべきと考えていました。

しかし、ここまではっきり書かれているなら、それなりに論拠があるのだろうと考え、なぜ、正常実質賃料を用いるのか、私が一応到達した結論は以下の通りです。(shujiさんのブログへのコメントより)

そもそも、土地残余法が、複合不動産の純収益から建物(等)に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元する方法ですよね。例えば、貸家及びその敷地において、家賃が正常賃料より高い場合、一体としての収益価格は自用の場合より高くなることもあると思います。(全体としての純収益が大きい場合)


ただし、部分鑑定評価で、土地残をする場合は、純収益を建物等に帰属する部分と土地に帰属する部分に分けないといけません。


正常賃料より高いことによって得られている超過分の純収益をどのように配分するのか、というところですが、土地のポテンシャルには含めず、建物だったり、労働、経営等に配分すべきとも考えられます。例えば隣同士、全く条件の同じ土地において、建物や経営努力の違いによって上げている収益が異なる場合でも、それらは土地の潜在的収益力以外の部分でもたらされているものであり、適正に配分されれば、最終的に土地に配分される純収益の部分は変わらず、一体としての収益価格には差が付くが、部分鑑定評価した場合の土地の収益価格は一緒になるという考え方です。


逆に、経営能力の低さによる収益の減少がある場合に、それを適正に配分しないと、土地に帰属する収益の減少として取り扱われることになり、このような配分は正しく行なわれたものとはいえない(収益配分の原則、要説より)というような記述もあります。

そう考えると、建付地や借地権の価格そのものは、上物の「経営の状態」には左右されないという考え方になり、残余法をやるときは出来るだけ適正に配分できるよう、新築建物を想定し、普通の家賃でやるということになります。

この論法は、結局賃貸不動産の経営状態の良否による増価分や減価分を土地に配分するかどうか、複合不動産の鑑定評価額の内訳価格をどう考えるかというところにつながりますが、超過収益による建付増価が見られるような現状では説得力はあまり無いような気もしますが・・・。

以上です。今では、この説明で問題無いのでは、と思うに至っています。

つまり、借地上の建物の賃料の多寡は借地権付建物一体の収益価格には影響を及ぼすが、借地権残余法を適用した際の借地権価格には影響を及ぼさない、ということです。
それは正常実質賃料(いわば普通の人が普通の能力で借地上の建物を運用した際、得られる賃料)を超えた超過分の収益は土地の潜在収益力とは離れたところにあるもの、という考え方です。
(*今、便宜上、正常実質賃料を越える場合を前提に書いていますが、逆に正常実質賃料を下回っている場合も同様です。)

また、shujiさんは実務修習の講義で、講師を務められた竹下先生に質問され、その回答として、賃料差額還元法との整合の観点から正常実質賃料を用いるべきとの回答を頂いたそうです。以下shujiさんのブログより引用します。

(竹下先生の回答)
借地権残余法と、賃料差額還元法は、基本的には同じです。違いは、借地権の上に、建物があるかないかです。
賃料差額還元法で、土地の正常実質賃料を用いるならば、借地権残余法においても、正常実質賃料でなければ、整合性がとれなくなります。もし、実際実質賃料が正常実質賃料と乖離している場合に、実際実質賃料を用いれば、適切な借地権価格を求めることができません。

最初は意味がよく理解できなかったのですが、よくよく考えるとその通りだなと思います。

借地上の建物がどれぐらい賃料を得ているとしても、賃料差額還元法では正常実質賃料(地代)と現行地代との差額を元に借地権価格を把握します。
これとの整合を取るなら、借地権残余法でも出発点は貸家の正常実質賃料で、そこから配分していく、ということになります。

例えば今、ある借地権付建物(貸家)があり、建物の正常実質賃料を査定すると100という賃料が得られたとします。そして仮に正常に配分した場合、収益は借地権、建物に50ずつ配分されるとします。
そこで、実際にはその建物は120の賃料を得ていたとします。その場合に例えば借地権への配分が60に増える、と考えるのが、現行賃料採用説、となります。
つまり、一体として高い収益を得ている場合、一体としての収益価格が上昇するのは当然として、借地権部分への配分も増え、部分鑑定評価した借地権価格も上昇すべき、と考えます。
逆に正常賃料採用説では、あくまで借地権への配分は50のままです。増えた20の部分は少なくとも土地(借地権)がもつ収益力ではなく、ほかのところからもたらされたと考えます。
それが、経営なのか資本なのか労働なのか分かりませんが、この考え方によればどうせ配分しない20の部分は考えず、正常実質賃料を元に配分するのがベストになります。

先ほど、賃料差額還元法との整合で正常実質賃料を求めるべき、と書きました。
それは、借地権残余法で60を配分すべきと考える立場に立つなら、50との差額で借地権価格を把握するのは整合しないという意味です。現行賃料120を前提に借地権の価値に相応した地代水準から現行地代を引かないと整合が取れなくなるということです。
この点は考え方次第で、賃料差額還元法の方で整合性を取るということも考え方としてはありえます。(個人的には上記、収益配分のロジックに今のところ納得してるので正常実質賃料で整合をとるほうが説明がつきやすいですが。)


正常実質賃料を用いることについて、最も引っかかっていたのは「現況所与どこいった?」ということでした。借地権付建物の部分鑑定評価であるのに、現行の賃料を無視して正常実質賃料を想定してしまうのは、現況を所与として部分としての借地権価格を求めるという、部分鑑定評価の考え方と矛盾しているのでは、ということです。

しかし、shujiさんのところで竹下先生の説明を読ましていただき、これについては整理が出来たと思います。
もちろん部分鑑定評価は現況所与であり、求める総収益は現況建物を前提としたものです。ただし、賃料については総収益を適正に配分するため、また賃料差額還元法との整合性の観点から正常実質賃料を採用する。
因みに、独立鑑定評価の場合は現況は関係なく、借地契約の範囲内で最有効使用を想定することになり、これが部分鑑定評価と独立鑑定評価の違いとなると思います。

(2)建物は新築想定か否か

shujiさんのブログに掲載されたshujiさんと竹下先生とのやり取りを見ると、建物については現在の中古建物を前提とし、その正常実質賃料を求め、建物価格も中古建物の価格を求めるとの回答であったようです。
最初は、なるほど、現況所与の部分鑑定評価だから現在の建物の状態を前提にするのだな、と納得していたのですが、こうして長々とまとめてきて、ふとどうなんだろうか?と思いました。

今までの論拠で行くなら、建物は新築状態を採用し、建物の還元利回りも新築状態を前提としたものを採用するというのが一番理屈に合っているかなと思います。今まで書いてきたことは、借地権の収益価格は建物がどんな状態でも、賃料をどれだけ上げていても、常に一定であるということですから。(もちろん借地権付建物一体の収益価格は変動します。)

もちろん、現行の中古建物の正常実質賃料を求め、中古建物に対応する還元利回りをもちいれば、同じ結果は導き出せますが、今まで収益配分の適正さを求めて正常実質賃料を、と書いてきたのですから、これに関しても一番シンプルに、新築想定をするのが妥当かと思います。


自分が実務修習をした際のメモを振り返ると、当初私は、現行建物を前提にした正常実質賃料でもって借地権残余法を適用していました。
つまり、今自分が正しいと思っている方法です。その後、色々と考えた結果、内容を変更し、借地契約の範囲内で最有効の建物を想定した借地権残余法を適用してました。
当時は色々と考えて出した結論だと思うのですが、これは完全に間違っていたと今では思いますし、当時の反省メモにも「これは独立鑑定評価の考え方ではないか?」とありましたので、出した後で気付いた節もありました。

まだまだ、穴はあるとは思いますが、とりあえず整理の意味でまとめてみました。

最後にもう一度。

この論法は、結局賃貸不動産の経営状態の良否による増価分や減価分を土地に配分するかどうか、複合不動産の鑑定評価額の内訳価格をどう考えるかというところにつながりますが、超過収益による建付増価が見られるような現状では説得力はあまり無いような気もしますが・・・。

これに尽きますね・・・。確かに説得力はない。土地の建付増価を認めるなら、借地権の建付増加のようなものもあって当然と考えることもできるでしょう。