差額配分法のマイナス差額配分(1)

10月末提出の実地演習の課題に賃料(地代・新規家賃・継続家賃)があって、いま家賃をやっているのですが非常にいろいろと考えさせられる部分があります。

賃料の鑑定評価書を書くのは初めてなのですが、やってみて価格とはまた違った難しさがあります。

すこしずつそういったところを書いていきたいと思っていますが、今回は差額配分法について書いてみたいと思います。

今回問題にするのは差額配分法におけるマイナス差額の配分方法についてですが、私が突き当たる疑問などというのは、やはりとうの昔に議論となっているわけで、ネットを探すとたくさん論文など見つけることが出来ます。

とりあえず一通り何が問題か、まとめて見ます。

・定義

差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち貸主に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。

これはご存知のとおり

で、「対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料」が「実際実質賃料」より高い場合、すなわちプラスの差額がある場合は、文字通り「貸主に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料に加」えればいいわけです。

問題となるのはマイナスの差額が出る場合です。簡単に言えば現行の賃料より、新規賃料のほうが安い場合です。(用語の不正確な部分はご容赦ください)

この場合にマイナス部分をやはり配分するのか、それとも新規賃料の額まで減額すべきか、というのが論点です。

新規賃料の額まで減額するとはすなわち配分をせず、マイナスはすべて貸主がかぶるということになりますが、それぞれ論拠は概ねこういったものです。(末尾記載のWEBサイトより抜粋、編集)

  • マイナス差額をプラスと同様に配分すべしとする根拠
    • 基準が差額の加減の仕方を加と減とで区別しておらず、減のときだけ一気に新規賃料の水準まで下げるべきという読み方はできない。
    • マイナス差額の一部を賃借人が負担するのは国民全体の痛み分けとして容認されるべきであり、一気に正常賃料にまで引き下げれば賃貸人にだけ不利益を負わせることになる。
    • 賃貸借には移転摩擦(引越費用や移転によって生じる種々のマイナスの影響)があるので、継続賃料は新規賃料よりも最低限移転費用ぶんより上回ってもよい。
    • 地価や新規賃料が上昇している時は、賃借人に急激な負担をさせるべきでないとしたプラス差額配分の抑制的スタンスからすれば、公平の観点からみて下落時には、マイナス差額配分を行なうべきである。
    • 継続賃料は、賃貸借の当事者が限定され、賃貸借契約の内容や契約締結の経緯、契約後の当事者の関係に拘束された主観的事情を考慮しながら適正賃料が形成されるべきものである。よって差額配分法による試算賃料が新規賃料を超えても賃料形成論理が違うため何等の矛盾はない。つまりマイナス配分の結果、新規賃料より高めに試算賃料がなったとしても、当事者間で合意のうえ、賃料が高く設定されたからであり、そのような当事者間の経緯が反映された賃料からスタートすれば、契約の自由性を尊重する限り、改定後の評定賃料も高位水準となる。このように当事者間の主観的な事情を反映するのが継続賃料の評価である以上、継続賃料が新規賃料を超えることがあっても異常値とはいえない。
    • 新規賃料を判断の基準とすることは求められた新規賃料の精度に疑いがあり問題が多い。
  • マイナス差額は配分せず新規賃料水準まで一気に下げるべきとする根拠
    • マイナス差額配分派が自説の論拠とした不動産鑑定評価基準の貸主に帰属する部分を・・・加減して・・・」の部分について基準では加減となっているが、「貸主に帰属する部分」となっていることからみて基準に定めた当時は差額がマイナスになることについて明確な認識がなかったと思われる。
    • 積算賃料や新規の比準賃料から経済価値に相応する新規賃料を求めていながら、新規賃料を超える試算賃料を適正な継続賃料として認めることは、合理的・客観的な経済価値を反映する鏡ともいうべき新規賃料を超える試算賃料を認めることになり、賃借人に対して説明責任が果たせない。
    • 差額配分法は土地の市場価格が収益価格と乖離して上昇し続けた時代は、新規賃料と現行賃料の間にプラスの差額が生じた。当該差額を賃貸借当事者間に配分する際に、賃料の保守性(経済的弱者保護)や賃料の遅効性(法的安定性)を考慮するのが裁判所の基本スタンスであり、急激な賃料上昇を避け、適正値が探られた。近年、地価が下落し、土地価格から投機性が剥落し収益価格に近づいている時代には差額配分法は存在意義を失った。
    • 継続賃料は新規賃料を後追いし、実際支払賃料が新規賃料を超えるのは一種の異常値である。


どちらの論拠に説得力を感じますか?もちろん実際にはケースバイケースではありますが。

長くなりましたので次回に続けたいと思います。

参考WEBサイト
小川不動産鑑定 | コラム(一覧)
バブル崩壊後の継続家賃の評価 / 差額配分法マイナス差額問題