差額配分法のマイナス差額配分(2)

前回の続きです。
2008-09-17 - 不動産鑑定士への道(受験〜実務修習)

個人的な結論をまず述べると、「マイナス差額も配分すべし」です。

まず、基準に「増減」と書いてあるとかないとか、そういう話は特に意味が無いと考えます。
基準に書いてあるからよい、書いてないから悪いというのではなく、自分がどうしてそう考えるのか、が大事だと思います。

では、そういう話はおいといて、なぜそう考えるのか書きたいと思います。

「マイナス差額は配分せず新規賃料水準まで一気に下げるべき」とする根拠について(基準の文言云々は除いて)考えを述べます。

  • 積算賃料や新規の比準賃料から経済価値に相応する新規賃料を求めていながら、新規賃料を超える試算賃料を適正な継続賃料として認めることは、合理的・客観的な経済価値を反映する鏡ともいうべき新規賃料を超える試算賃料を認めることになり、賃借人に対して説明責任が果たせない。
    • 継続賃料に合理性などもともと無いのではないか。基準の手法を見てもわかるが、スタートラインを現行賃料において、上下にどれだけ動かすかを決めているだけである。もともとの現行賃料の水準をとやかくいう理由は無い。当事者は契約自由の原則に基づき現行賃料を決定した。仮にそれが高かったとしても、改定時にいきなり正常賃料水準に下げる根拠(当事者の当初契約を否定する)はなんなのか。もし脅迫されて高値での契約を強いられたなどの事情があれば、それは継続賃料とは別の問題である。
  • 差額配分法は土地の市場価格が収益価格と乖離して上昇し続けた時代は、新規賃料と現行賃料の間にプラスの差額が生じた。当該差額を賃貸借当事者間に配分する際に、賃料の保守性(経済的弱者保護)や賃料の遅効性(法的安定性)を考慮するのが裁判所の基本スタンスであり、急激な賃料上昇を避け、適正値が探られた。近年、地価が下落し、土地価格から投機性が剥落し収益価格に近づいている時代には差額配分法は存在意義を失った。
    • これはある意味納得できる。賃料が右肩上がりの時代に、急激な賃料上昇を避け、賃借人を保護する意図があったと思われる。しかし差額配分法が存在意義を失ったというのは言い過ぎではないか。継続賃料を決定するに当たって、正常賃料水準からの検討を行うことは意義があると思う。(上記の意見と矛盾していると思われるかもしれないが・・)
  • 継続賃料は新規賃料を後追いし、実際支払賃料が新規賃料を超えるのは一種の異常値である。
    • もともとの契約で高い水準で契約したのなら、次の契約でも新規賃料水準を越えるのは考えられることであり、異常ではないと思う。
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マイナス差額が出たら新規賃料まで一気に下げるということは、上の論拠を見ても「新規賃料を超える継続賃料は説明が付かず合理的でない」といっていることと同じです。これを掲げると、差額配分法のみならず最終的な鑑定評価額においても、継続賃料は新規賃料を超えることは出来ません。超えた場合非合理だということになります。

しかし、継続賃料評価の手法のうち、新規賃料を意識した試算賃料は差額配分法だけです。スライド法や利回り法は新規賃料とは関係なく、前回合意時点からの基礎価格の変動や経済動向の変化をもとに試算賃料を求めます。賃貸事例比較法は実際には適用が難しいでしょうが、「周辺で増額改定が多いか、減額改定が多いか」といった動きが反映されてくると思われます。これらの手法では絶対値としての新規賃料は加味されません。

もし、新規賃料を超える継続賃料がありえないとするならば、継続賃料評価においては、まず新規賃料を試算しそれが現行賃料より低ければ新規賃料をもって鑑定評価額とすればいいことになります。

新規賃料との比較というのは継続賃料を決定するに当たって、一面としては意義があると思いますがそれがすべてだとは思いません。

それとも継続賃料の鑑定評価に当たっては前回合意時点の賃料が新規賃料水準より高いとか低いとか判定して、それを適切に補正したあと、継続賃料を考えるものなのでしょうか。だとすれば、納得できる部分もありますが。

差額配分法は賃料が正常賃料を意識して設定された場合には、継続賃料の試算方法として優れた手法であると思います。その場合プラスだけでなくマイナスも衡平に配分すべきだと思います。仮に、賃料が正常賃料水準をかけ離れて決定されている場合、それほど説得力があるとは思えません。(なんで当事者で決めた水準を強引に正常水準に修正しようとするの!という感じです。)

まだまだ考えが荒い部分もありますがとりあえず自分の意見を書いてみました。また考えが変わったら修正します。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。