継続賃料鑑定理論についての現状でのまとめ(2)

(2)意図的な高額契約が判明している場合の継続賃料鑑定評価

(1)では差額配分法の優位性ということについて、私の意見を述べました。今回は、これが意図的に高額の賃料で契約したことが明らかな場合について考えたいと思います。何度も書いているのですが、貸主に積極的な賃貸の意図が無く、「2倍でなら」ということで借主と合意し契約に至ったようなケースです。特に明示していなかったのですが、この2倍で、という内容を契約書等で明らかにしているのか、いないのかという問題があるかもしれませんが、とりあえず、特に文書化はしていないと言うケースで考えてみます。ただし、2倍でなら貸すというやり取りがあったことは当事者双方が認めています。
このケースで考えられる処理としては3パターンあると思います。
A.(1)のケースと同様に扱う。通常の継続賃料の動きを重視して、差額配分をしながらいずれ正常賃料水準へ近づいていくような鑑定を行う。(差額配分法優位)
B.当事者において2倍で契約すると言う意思が確認できる以上、よっぽどの経済環境の変化が無い限り、それを変えないのが筋である。本ケースでは経済動向に変化が無い以上、当初契約の条件を変更する理由が無く、継続賃料は横ばいである。(継続賃料を鑑定するケースではない、あるいは差額配分法に意義を認めない)
C.AとBの間を行く考え方。つまり、意図が無く高値契約した場合と全く同様に処理するのは適切ではないであろうが、やはり正常賃料へ近づいていく傾向がゼロではないのだから、下げ幅は(1)のケースより小さくなるとしても減額改定になる。(差額配分法優位、契約の経緯を踏まえた調整)

この問題をブログに載せたときの私の考えは、読んでいただいた方はわかると思いますが、Bでした。(今はどうかはあえて書きません)
論拠としては、下げるときの根拠になる差額配分法に意義を認めなかったからです。(繰り返しますが、他の手法は横ばいと出るので、下げるなら差額配分法をあえて重視することになります。)なぜ差額配分法に意義を認めないのか?それは差額配分法と言う手法が、
「当事者それぞれについて、正常賃料から乖離した賃料は、改定を繰り返すたびに正常水準へ近づけていこうという意識をもって行動する」
という前提の下に成り立っているところ、(2)のケースでそういう状況にあるとは思えないからでした。
意図的に正常水準と異なる水準で契約していることが明らかな場合に、(正常水準へ誘導する手法である)差額配分法に重きをおくのはどうも納得いかなかったのです。「契約自由の原則」のもとで、当事者が合意した契約を、鑑定評価が捻じ曲げる?ような違和感がどうしても拭い去れなかったわけです。
しかし、コメント欄でやり取りするうちに、正常賃料へ近づけるのは「当事者の意識によるもの」以外に、賃借人が持つ「移転」という選択肢による下落圧力によるものもあることを忘れていたことに気づかされました。つまり、需要と供給の原則や経済合理性の問題です。
結果として、この圧力がどの程度のものになるか、状況しだいと言ったところでしょう。あえて2倍で借りるぐらいだから本人にとっては相当いい物件だったのでしょうから、それに相当する物件が代替に無ければ、引き続き2倍で借りることも考えなければいけないでしょうし、その程度の物件がここ10年で増えてきて十分に代替できるとなっていれば、下げ圧力は大きくなります。ケースバイケースといってしまうと終わりなのですが。

下げ圧力が大きい場合(代替物件が増えている場合)には貸主も強固な姿勢には出られず、下げに応じざるを得ず、下落改定の鑑定をしても(渋々ながら)納得が得られるでしょうね。
逆に言えば、状況によっては横ばいという結論もありえるとも言えそうです。

鑑定評価としては、ある程度の下落と言う結論を導き出さざるを得ないかもしれない。でも個人的にはこのケースで賃料下落改定を強く叫ぶ賃借人には違和感を感じてしまうような気がします。

↓以下は私の認識不足から対比としてふさわしくないケースを書いています。読み流してください。
逆のケースを考えてみてください。賃貸人が「相場の半値でいいから入居してくれ」というから入居したのに、改定を行うたびに「他よりまだ安いんだ、嫌なら出て行けばいい」と言いながら増額改定を繰り返し、いずれ正常水準の賃料になってしまったとしたら・・これと同じ違和感だと思います。
↑読み流し、ここまで・・

もちろん理論的に説明できるものでもないで、こんな「違和感」について語っても仕方ないですが。
ある金額で契約した以上、特に事情の変化でもなければそのまま維持するのが人間社会のルールではないか、と思う反面、経済合理性による調整は確かに存在するのであり、また、賃貸借は契約が長期にわたることから、現状をずっと維持すれば良いというものでもない、結局はそのバランス感覚の問題になるのかなと思います。

(*後は、この状況で賃貸人が納得する「下げ根拠」としては「借主の負担能力の変化」があると思います。つまり賃貸人の収益力の変化がある場合には、経済動向の変動とは別に、継続賃料を動かす理由になるのではないか、継続賃料鑑定評価においても収益分析の観点からアプローチが有用ではないか、という思いもあります。しかしこの点はここでは触れるのをやめておきます。)


さて、実はこのテーマ、まだ続きます。次回は、(いつになるかわかりませんが)差額配分法のマイナス差額を配分するか?という話でも書きましたが、継続賃料にどこまで経済合理性を反映させればいいのか?という内容についてHanzoさんにご紹介いただいた、大野喜久之輔先生の論文や下記書籍等を参考に書いてみたいと思います。

継続賃料鑑定評価を再考する

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